■ トゥームストーンのOKコラル
昨夜はこの旅行で一番よく眠れた。やはり疲れが溜まっていたのだろう。気がついたら7:40になっていた。
車の旅は細かい時間に縛られないのがいいところ。のんびり支度して、8:30に外へ出る。窓から外を見ると寒々しい雲が空を覆っているのが見えたが、見かけどおり外はとても冷え込んでいて、オーバーのフードをかぶって歩く。そして、風格ある町役場や裁判所の建物を撮影してから、開いているレストランを見つけて朝食にする。やはり観光地価格で、一番安いモーニングでも$7.99、それに飲物や税、チップが合わさって$12もかかる。ただし、作りたての暖かい料理はやはりうまい。アメリカらしいカリカリのベーコンや太いソーセージもいける味だった。
食後、モーテルに戻ってチェックアウトし、10時にこの町最大の見どころOKコラルに入る。西部開拓時代を象徴する事件を再現したガンファイトショーを見たかったが、14時からしかやっていないので諦める。ショーを見ない場合の入場料$6を払って入ると、トゥームストーンとOKコラルの歴史に関する解説があり、実際のガンファイトは当時のコラルの外、道路側で起こったということもわかった。
入口左横には昔の職人の作業場が復元され、19世紀の重々しい革製品が展示されている。革細工が得意だった父がこれを見たらさぞかし喜んだだろうという想いで、それらを眺めた。
斜め奥の方は広い中庭があって、売春婦の小屋や事件を目撃した女性が暮らしていた部屋等が再現されている。そして一番奥にガンファイトの現場があって、八人の人形が撃ち合いの始まった時の体勢で立っている。ボタンを押すと事件の一部始終のナレーションが流れるが、早口の英語なので私にはさっぱり聴き取れない。
OKコラルを出たら少し晴れ間が広がっていたので、大急ぎでダウンタウンの建物を撮影。通りには当時のならず者の格好をした男達や馬車が行き交い、西部劇の雰囲気を残す古い街並を盛り上げている。現代のならず者はみんな気さくで、快く観光客の記念撮影に応じてくれる。
11：30にトゥームストーンを後にして、郊外の古い墓地、ブートヒルに立ち寄る。$3の寄附で詳細な説明書をもらってきれいに修復された墓を見ていくと、「murdered」とか「shot」といった物騒な死因が書かれているものが多く、荒事が日常茶飯事だった当時の治安がうかがえる。OKコラルで射殺された三人のカウボーイもここに埋葬され、特に目立つ場所にあって花も供えられている。一方、「unknown」とだけ記された墓碑もたくさん見かける。鉱山の富で賑わう街で、夢破れて誰かもわからないまま命を落とした人々の無念を思うと悲しくなるが、そういった墓も地域住民の愛郷心で大切に扱われているのがせめてもの救いだろう。
ここからトゥーソンへは往路と違うルートをとることにして、真西へ向かい、ワチュカシティという町のスタンドでこの旅行二回目の給油。11.083ガロンで$43.21という値段だった。
給油を終えてインターステート10号線を目指して北上していると、次第に遠くが見えなくなってきたと思ったら雪が降り出してきた。そしてインターステートに入ってからは何と吹雪になり、前車との車間に注意しながら速度を落として慎重に走っていく。幸い車がひっきりなしに通るので、車線に雪が積もったり路面が凍結することもなく、トゥーソン市街に向かって高度を下げるとみぞれに変わったので助かった。
出口267でインターステートを降り、トゥーソン南部の郊外、広々した直線道路を西へ向かう。目指すはスペイン時代の古い教会、サン・ゼイビア・デル・バク(San
Xavier del Bac)だが、そこに至る道順がわかりにくく何回か曲がるところを間違えた。
しかし、雪が止んだとはいえ空のほとんどが雲に覆われており、いい写真が望めないので、内部を一通り見てから退散。装飾豊かな木製祭壇などはメキシコの教会とよく似ていて、かつてスペイン領だった歴史をよく今に伝えている。
サン・ゼイビア教会を出たのが15時少し前。元々の予定では200km強西のアホ(Ajo)まで行って泊まるつもりだったが、今日は天気が回復しそうにないのでトゥーソンのモーテルに泊まることにする。ただし夕方までまだ時間があるので、余った時間でトゥーソンの西の山麓に設けられたサワロ(Saguaro)国立公園に寄ってみる。
アップダウンのきつい道路の両側には背の高いサワロサボテンが林立し、漫画に出てくるサボテンみたいに見事な枝分かれをした株もあって面白い。しかし、寒くてたまらないうえ、雲が厚みを増して薄暗くなってきたのでこれ以上見て回る気が起こらず、ビジターセンターに寄っただけで引上げることとした。
国立公園の敷地を出る頃からまた雨が降り出してきた。とりあえず近くの入口からインターステート19号線に入ってみたが、この沿道にはモーテルがなさそうなので、幹線の10号線沿いに出ようと、すぐに下りてさっき通った道を東へ戻る。そして、10号線をトゥーソンのダウンタウン方面に走りながらモーテルの看板を探す。
ところが、時間が経つにつれ一層雨足が強まるとともに、だんだん雪混じりになってきて、昼間の吹雪よりずっと湿った本格的なみぞれになってしまった。ただでさえ夕暮れを迎えて暗くなってくる状況で、次第に前方の視界も効かなくなってくる。何とかモーテルが集まっていそうな出口を見つけて看板の灯りを頼りに走り続けたが、日本の道路より街灯がずっと少ないので車線のペイントなどもほとんど見えない。事故への恐怖で泣きそうな気持ちになりながら半ばやけくそでハンドルを握り、何とかモーテルの入口を見つけて駆け込めたのであった。到着したのが17:30と早めの時間であったのが幸いしてか十分な空室があり、泊まるところを確保できてようやく生きた心地になった。
このモーテルは建物も新しめで一泊$47.47と安く、値頃感がある。室内には電子レンジの他、オーブンや鍋・食器類など一通り揃っており、数日滞在して自炊するような人向きのようだ。
この天気でもう一度車を出すなんて絶対にしたくないので、夕食は持参したカロリーメイトで済ます。今日はたまたま給油時にスタンドでビーフジャーキーを買っていたので、お誂え向きにおかずもあって助かった。
食後シャワーを浴びて寝る前に外を見ると、駐車場は車で一杯になっている。暗くなってからチェックインする車が続出したのだろう。また、車の屋根とボンネットには凍った雪がびっしりと積もっているが、どうやら降り止んだみたいであった。
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