■ イエローストーン・グランドガイザーの噴出
朝目が覚めると、外はどんよりと曇っている。昨日、日没時に巻雲が現れだしたのでいやな予感がしたが、そんな予感だけは的中するものなのだ。今日がこの旅行のメイン、連泊して一日中じっくりイエローストーンの自然を満喫する日なのに、残念。
途中から晴れるかも知れないし、なによりせっかく旅行に来ていじけていても仕方がないので、8時に出発、一路湖畔を北上する。
その先、平らな草原が広がるヘイデンバレーまでは順調だったが、そこでいきなり渋滞につかまる。何事かと思って前方を見ると、ちょうど右側の川から左手の草原へとバイソンの大群が横断するところに当たってしまったようだ。当然ながら野生動物最優先のうえ、連中は人や車を全く恐れずゆっくりと渡るので、それを待つために大渋滞が発生している。目の前を巨体が横切ると、車内にいるとはいえ、緊張する。
ようやく渋滞を抜け出し、9:30に北東部にあるキャニオン(Canyon)カントリーに到着。ここのビレッジにカフェテリアがあるので朝食にする。注文カウンターに台湾出身の若い女性がいて、日本から来たのかと尋ねてきたので、トーストが焼けるまで少し話をする。留学生だろうか。
食後は北部のマンモス(Mammoth)カントリーを目指す。途中、見事な松林の高原を通る。ところどころ、20年前の山火事で一面立ち枯れている間に若木が成長しつつある、森林再生の現場が見られる。
マンモスの手前、いきなり両側の山の間が狭まる関門のような所を通過すると、辺りは突然切り立った急斜面に変わって、つづら折の急坂で一気に下っていく。日本の山道と同じくらいの狭い急カーブで走りにくく、地図で見た感じより時間がかかる。マンモスビレッジ直前で今度は鹿の群れの横断待ち。こちらも全く車を気にしない。
この地区最大の見どころ、テラスマウンテン(Terrace Mountain)で車を降りて見物。白い石灰岩が段状に堆積した石灰棚では、一頭の鹿が一心不乱に水を飲んでいるのを発見。かなりくせの強い味だとおもうのだが、ミネラル補給にいいのだろうか。
石灰棚は上の方まで続いているが、大部分は水が涸れて白い固まりが見えるだけであまり絵にならない。トルコのパムッカレの方が美しい。
テラスのすぐ北にはマンモスのビレッジがあり、ビジターセンターに入る。ここは昔のイエローストーンに関する絵画や写真、そして棲息する動物の生態の解説がメインで、オオカミ、コヨーテ、バイソン、エルクなどの剥製も展示されている。
ちなみに、先ほど立ち寄ったキャニオンのビジターセンターは火山の歴史や火山活動をテーマにしている。そこで興味を引いたのは、ここが内陸に出現したとても珍しいホットスポットで、3000万年前にはネバダとオレゴンの境界辺りにあったのがゆっくりと移動して現地に至ったということである。
ビジターセンターを出たのが13時。ベールのような雲がびっしりと上空を覆い、一向に天候が回復する気配がない。どうやらかなり強い寒気が留まっているらしい。
元来た道をノリスまで戻り、そこからそのまま南下してガイザーカントリーを目指す。おなじみのオールドフェイスフルに15時に到着し、天気が悪いのなら今のうちに買い物しようと、100年以上の歴史をもつ巨大なログキャビンのオールドフェイスフルインに入る。
さすがに世界有数の木造建築だけあって天井は高く、広大な吹き抜けに太い柱が何本も立っている。階を区切る床材も太く、手すりや階段も全部木製、屋根に至るまで厖大な板でできていて、木の芸術と言える。日本の木造建築とはまた違った醍醐味がある。
素晴らしい内装に見とれ、みやげ物を買って出てくると、いつの間にか乳白色の忌々しい雲が消えて、待望の日の光が降り注いでいる。もう諦めていたところの晴天に喜び勇んでトレイルを歩く。
あちこちに見られるプールは透き通っていて、さざ波が日光を反射してとても美しい。また、直径1ｍ足らずの小さな間欠泉からもボコボコと熱水が沸きだしていて、何だかかわいらしい感じがする。
先の方で人だかりができているので寄ってみると、そこはグランド(Grand)ガイザー。掲示板によれば15:50〜19:50の間に噴出するだろうという予想で、今は17:30、観客が多いということはまだ終わっていないだろうと思って私も座って待つ。
やがてどこからかひげ面の爺さんが現れ、トランシーバーで通信して近くの人に何やら話しかけたと思うと、17:43に突然水煙が高く上がりだした。
シューシューという音とともに水煙は断続的に高く上がり、湯気も立ち込めて迫力満点。いつしか左横の穴からも連動して噴き上がり、二つの競演となって楽しさ倍増。水煙に日が当たる角度も申し分なく、時々虹も見えて、クリアーな青空と背後の森の緑色とのコントラストも見事である。
継続時間は結構長く、10分以上続いて一旦止まった後、すぐに噴出再開してからようやく終わるというまるで演出したかのような自然のショーであった。晴れてくれて、しかもちょっと待っただけで噴出に遭遇できた幸運に心から感謝せずにはいられない。
大満足でゆっくり歩いてビレッジに戻り、カフェテリアで夕食。チキンバーベキュープレートとサラダ、アイスティーで$13.65。野菜を補給できるのが嬉しいし、チキンにはライスがついていて、長粒米とはいえ米が食べられるのも日本人にはありがたい。久しぶりにファストフードでないまともな食事をした。
ゆっくり食べて19:30頃にオールドフェイスフルを出発。明日も何とかこのまま晴れることを切に願いつつ、たそがれ時のよくすいた道路を走ってロッジに帰り着いた。
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