■カンペチェ旧市街の街並み
朝7時に起床し、7:30にタクシーで空港へ向かう。カンペチェ(Campeche)行きの国内線はアエロマルという会社だが、ターミナルのカウンターは追いやられたような片隅にある。それに飛行機もバスで空港内を半周したような所、ほとんど格納庫の端のような場所から搭乗させられる。どうやらかなりマイナーな会社であるようだ。
52人乗りターボプロッポの機の搭乗率は半分ほどで、搭乗券記載の席にかかわらずみんな好き勝手に座っている。定刻に飛び立ち、高度を上げていくと、4000ｍを超えたあたりで白い靄を突き抜け、いきなり清明な大気に変わる。窓から下界を見ると、低空を覆う靄が乳白色の海のように広がり、ポポカテペトルやオリサバといった5000ｍ級の火山の頂が島のように顔を出している。この靄、大気汚染のせいと言うより、大陸特有のものらしく、メキシコ市を離れても海上に出るまでずっと続く。
一旦メキシコ湾に出て、再び陸地が見えてくるとすぐカンペチェに到着。のどかな田舎の空港なのに、軍用犬を連れて小銃で武装した兵士が数名警戒に当たっている。
飛行機から降り立つと、雲ひとつない真っ青な空に強い日差しが降り注ぎ、気持ちいいけれどとても暑い。何もない小さな空港からさっさとタクシーで旧市街へ。タクシー代は80ペソ。まず旅行会社に行ってホテルの予約を頼むと、すぐ隣のバルアルテスという所を紹介された。砦にも海にも近い好立地で、一泊600ペソとやや高いが、早く落ち着いて少しでもゆっくり観光したいので即決。ついでにカラクムル遺跡のツアーについて尋ねたが、他に参加者がおらず、一人で車を借り切ることになるので何と1800ペソもするとのこと。二万円近い出費のため少し迷ったが、公共交通のほとんどない僻地で他に手段がなく、次に行く機会があるかもわからないので思い切って申し込む。
ホテルの方は箱型中層の典型的な中級ホテルで、部屋は広くて清潔だがシャワーしかないのが残念。
すでに正午も過ぎているので早速旧市街へ繰り出す。周囲には街を囲む城壁が連なり、要所要所に堂々とした砦が今なお残っている。サンゴを固めた真っ白な石材と深い空の青とのコントラストがとても鮮やかだ。カリブ海といえばまず連想するのが海賊であるが、砦の上には銃眼のついた櫓もあり、堅固な造りが海賊の脅威のほどを今に伝えている。
城壁には北側の海門、南側の陸門の二つの門が残り、門のアーチには風格ある装飾が施されていて美しい。そして両脇に並ぶ復元された大砲が歴史ロマンを盛り上げてくれる。
旧市街は端から端まで歩いて10分ほどの距離でそれほど広くはないものの、碁盤目状に交差する道に沿って一〜二階建ての箱型の家並みが続いていて、歩き応えがある。どの家もパステルカラーに塗られ、色彩豊かで明るいムードが漂う。店舗になっている家も多いが、ベトナムのホイアンみたいに俗化されておらず、商品も店の中に片付いているので美観への悪影響が少ないのがいい。しかし、辟易するのが路上駐車の多さ。そのせいで折角の街並みが台無しに見える所も多い。世界遺産として保護しているのだから、自動車通行禁止とまでしなくても、せめて駐車禁止ぐらいしてほしいものだ。
午後の日差しを浴びて日に焼けながら街の北側へと歩いてくると、いかにもこの街の中心という感じの広場に着き、その横には大きなカテドラルが街を見守るように建っている。左右対称の双塔をもつ純白の教会は、明るく開放的な軽さと気高さを併せ持っていて、なかなか見ごたえがある。
日没前にカテドラル再訪してみると、夕日を浴びた外壁はオレンジ色に染まって幻想的な光景が見られた。それから少し離れた海岸の遊歩道に出て、メキシコ湾の落日を観賞。雲がないので邪魔されずに水平線に沈んでいく太陽を見届けられたのだが、その分残照を反射するものがないため、夕焼けはあまり見栄えがしない。太陽が退場した後、西空の主役は並んで光を放つ三日月と金星に交代し、東の方では火星がオレンジ色に光りだす。
暗くなってくると、夕食を食べにガイドブック掲載のレストランへ行く。天井が高く雰囲気がいいが、あまり高級ではなく気軽に入れるのが有難い。ここのメニューは曜日ごとに変わり、今日日曜はチキンのグリルにメキシコ風ソースをかけたもの。辛くないので助かる。チキンの味はそれなりだが、それより暖かいトルティージャがおいしい。また、ドリンクは「シタベントゥン」というユカタン伝統の酒にチャレンジ。蜂蜜が原料というドロッとした甘くて強烈なリキュールで、炭酸で割って飲むものらしい。飲んでみると、蜂蜜の味が残ってとても甘いうえ、薬みたいな変な味がする。子供の頃医者で飲まされた飲み薬みないな感じで、うまいとは言えないが、飲めないほどひどくはなく、結構くせになりそうな酒である。代金はチキンが40ペソに酒が26ペソと、そんなに安くはない。
食後、腹ごなしにカテドラル周辺を散策。車のタイヤで磨かれた石畳がオレンジ色の街灯を反射して光り、パステルカラーの壁もいい具合に落ち着いた色となって、昼間よりも風格がある。
日曜日だからか地元の人たちもたくさん繰り出していて、広場は大変賑やかである。小さい子供も多く、人形みたいに可愛く着飾った女の子も何人かいる。子供たちが上機嫌でキャーキャー言いながらチョコマカ走り回り、親たちがそれをとても優しいまなざしで見守っているのを見ていると、世界中言葉や宗教が違っても、人間って同じなのだな、ということを改めて思い出させる。とても安らかな満たされた気持ちになってホテルへの帰途につくのであった。
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