６日目 2014.9.18（木）
ずっと順調に走っていたが、このバスも2時になると停止した。ひょっとしてまた三時間停まり続けるのかと思ったらその通り。そして5時になるやいなや動き出した。これは偶然とは考えにくく、公安の命令で深夜2時〜5時の走行が禁止されているのだろう。
動き出してから少しの間眠れたようだが、今度は妙に暑くて目が覚めた。エンジン音が聞こえないのに左右に強く引っ張られる感覚から察するに、どうやらエンジンを切って山道を下っているらしい。それで冷房も切れて暑くなったみたいだ。プロドライバーがエンジンブレーキが効かなくなる危険を知らないわけあるまいし、そこまでして燃料代をケチってくるところに、怖さよりも中国の世知辛さにあきれてしまった。
8時過ぎになって日が昇ってきた。今日も天気はいいようだ。トクスンという所で検査と称して全員降ろされたが、なぜか調べようともせずすぐ解放された。乗客が漢族ばかりなので無害と判断されたのか、中国人客も「何でや」、「わからん」みたいなことを言いながら笑いあっていた。何にせよ検査などないほうがいいに決まっている。
トルファン盆地の底に位置するトクスン付近は雨がほとんど降らないと聞いていたが、まさにそうで、ほとんど草の生えない褐色の土漠がひたすら広がり、風力発電の風車が無数に林立している。また、ここから今日の目的地トルファンが近いので、降りられないかと期待したのだが、途中で客扱いはしないみたいなので一旦終点ウルムチまで行くしかない。
トルファン盆地を過ぎると今度は山越え、南彊と北彊を隔てる天山山脈の最も低くて狭いところを抜けていく。荒々しいはげ山を縫ってカーブが連続する素晴らしい風景が展開し、朝日を受けて土色の山肌がより鮮やかに見えて迫力を増す。
ただし、山越えの景勝区間は思ったより短く、一時間もしないうちにいきなり平坦な広い盆地に変わる。それからは平凡で退屈な車窓になるが、どうも腹の調子がよくない。やたらガスが溜まって時々ゴロゴロ鳴る。特段不審なものは食べていないが、年のせいで環境の変化に胃腸が弱くなってきたのか。幸いまだ便意には発展せず、しばらく耐えられそうだ。
ウルムチ市街の手前に大きな検問場がある。省都の入口だけあって、ここでは全員の荷物をスキャンされて時間を食う。その先、高速を降りるとすぐウルムチ南郊ターミナルに到着。
バスを降りるとタクシードライバーが「機場」「飛機場」と連呼しながら集まってくる。明後日ここから空港へ行く予定だが、どうやらタクシーはすぐ確保できそうだ。（あるトラブルにより、帰路はこのバスターミナルを使わなかったのだが、この時点ではそんなことは知る由もなかった。）
疲れたが早くトルファンへ行きたいので、すぐ切符売場へ。距離が近いトルファンへは専用の窓口があり、頻発しているので次の便の切符がすぐに買えた。わりといい車体で、乗り心地も合格レベル。ほとんど元来た道を戻る形になるので、往復約六時間無駄にしたことになってしまうが、クチャ−トルファン間を直結するバスがないのでやむを得ない。
トルファン（吐魯番、Tulufan）のバスターミナルを出て、さて中心部へ向かおうとガイドブックを出して現在地を確認するが、どうも地図と様子が違う。いつの間にかターミナルが移転していたようで、今どこにいるのかすらさっぱりわからない。それでも適当に東の方へ歩いていくと、町の中心を南北に通る高昌中路に出たのでようやく位置を把握できた。
中国一夏が暑い町だけあってトルファンはさすがに暑く、カンカン照りの中、寝不足に下痢気味まで加わって体力も限界、一刻も早く落ち着き先を確定したい。ブドウ棚の並ぶ通りを進んでいくと、ガイドにも載っている老舗のトルファン賓館を見つけ、無事二泊分の宿を確保。
このホテル、以前は外国人ツーリストで賑わったらしく、スタッフは英語ができるし、屋内の表記も英・日合わせて三ヶ国語になっている。しかし今はガランとして客の数も少なく、ロビーの土産物屋、離れの洋風カフェも閉まったまま。やはり新疆情勢の変化に伴い観光客が減っているのだろう。ともあれ体調が不安な時に外国人慣れしている宿に停まれるのは助かる。
部屋に入るや否やトイレに駆け込み、その後ベッドに倒れこんでしばらく休む。それから部屋の水差しで水分を補って何とか少し回復してきた。夕方まで少し時間があるので、博物館等近くの見どころへ行こうかとも考えたが、まだ本調子ではなく、途中で便意を催しても困るので今日はゆっくり休むことにする。ただし、食欲がないからと言って一日何も食べないと却って体調悪化の恐れもあるので、夕刻に近くの店でカップ麺を購入し、部屋で湯を沸かして食べる。どうせなら日本にないものをと刀削麺を買ってみたが、けっこういける味だった。
また、戻りしなホテルの門で日本語を話すウイグル人のガイドに話しかけられたので、600元で明日一日車のチャーターを頼んでおいた。トルファンの主な遺跡や観光地はどれも離れた場所に点在してるうえ、公共交通機関がないので、金はかかるがどうしても車のチャーターに頼るしかなく、渡りに船である。
|
