プノンペン (Phnom Penh)

1975年にカンボジアの政権を握ったクメール・ルージュ（ポル・ポト派）は、極端な原始共産主義政策に基づき、都市から農村への強制移住を断行し、プノンペンはゴーストタウンと化した。 　そして反革命分子とみなされた者や共産主義社会に不要とされた知識人から始まった殺害は、無実な民衆、さらにはクメール・ルージュの幹部にまでエスカレートしていき、大虐殺の嵐が政権崩壊の1979年まで続いたのである。 　その時代に政治犯の収容所として使われていた施設の代表的なものが、当時は暗号名でS-21と呼ばれていたトゥールスレン収容所であり、ベトナム軍による解放以来、残虐行為を伝える博物館として公開されている。 　この施設はかつて高校として使われていたものを転用したもので、箱型の建物が中庭を囲む配置に学校時代の面影が残っている。 （2010.12 撮影）

S-21収容所は1976年に設立されて以来、些細なきっかけで逮捕された囚人が厳しい拷問を加えられ、自白を強要されたあげく殺害されていったが、当時使用された拷問器具がいくつか復元展示されている。 　中庭の端にあって最も目立つ門のような構造物は、囚人を吊り下げて暴行したもので、下に置かれた水甕は水責めに使われたという。 （2010.12 撮影）

収容所の南の棟は尋問用の独房として使われ、いくつかの部屋には錆びて骨組みだけになったベッドがポツンと置かれている。 　ベトナム軍による発見時、ベッドの上には看守が逃亡前に最後に殺害した囚人の遺体が放置されていたと言い、当時撮影された、真っ黒な遺体が写った写真が各部屋に掲げられている。 　静まり返った室内は、きれいに片付けられた以外写真のままなので、それだけにここで何が起こったのかがイメージしやすく、戦慄を禁じえない。 （2010.12 撮影・D）

プノンペンの南西郊外のチョンエク村には、S-21収容所から運ばれた囚人を大量に虐殺してその遺体を埋めた処刑場の跡がある。同様の場所はカンボジア各地に存在するが、ここチョンエクの処刑場が最も有名で、英語の「キリングフィールド」と言えば通常この場所を指し、世界各国からたくさんの観光客が訪れている。 　敷地中央にはカンボジア様式の新しい慰霊塔が建ち、その内部には夥しい犠牲者たちの頭骨が安置されれていて、理不尽に奪われた命の多さを見せつけられる。 （2010.12 撮影）

クメール・ルージュは、弾薬を惜しんで銃器を使用せず、竹槍や鉈、斧など原始的な道具や毒殺による処刑を行った。また、小さい子供は樹木の幹に頭をぶつけるという方法で殺害したと言われる。そうした犠牲者の遺体は、周囲に掘られたたくさんの穴に投げ込まれていった。 　今はのどかな雰囲気が漂い、当時の地獄絵図を想像することも難しいが、半分埋められた状態で残る穴は廃棄物の埋立処分場みたいに見える。同じ人間を大量に殺害した挙句ゴミのように捨てたという事実に、人間は何かのきっかけでここまで狂えるのかと、悲しく、そして恐ろしくなってくる。 （2010.12 撮影・D）

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