アンコール(Angkor)

三基並ぶ祠堂
　シェムリアップ市街の13km東に位置するロリュオスは、アンコール・トム一帯に遷る前の王都ハリハラーラヤ(Hariharalaya)があった場所であり、9世紀に建立された寺院が残っている。
　その中で、879年インドラバルマン一世(Indravarman I)によって建てられたプリア・コー(Preah Ko)は、アンコール最古の寺院である。プレ・アンコール期の遺跡と同じレンガ造りの塔は、砂岩やラテライトで建てられた他の寺院とはかなり様相が異なり、むしろ隣国チャンパの遺跡に似ている。その意味でも、不便さを押して訪問する価値は十分にあると言えよう。
　この寺院の主要伽藍は三基の主祠堂の後方に小祠堂を従えた全六基の塔から構成されている。これははるか離れたジャワ島のプランバナン寺院にも見られるシバ派寺院の一般的な形式である。
　寺院の祠堂はシバ神を祀るとともに、クメール王朝の樹立者ジャヤバルマン二世(Jayavarman II)と王の父・祖父に捧げられたとされ、偉大な王と祖先の神格化により王の権威を高める狙いもあったと思われる。
　なお、主祠堂の前にはシバ神の乗物聖牛ナンディの石像が置かれ、プリア・コー（聖なる牛）の名はこれに由来している。
　
（2010.12 撮影）
撮影ガイド：これらの塔は東向きのため、午前中が順光。なお、ヒンドゥ教寺院は、ごく一部の例外を除いて全て東が正面となっている。ちなみに中国文明の寺院・宮殿はほぼ全て南向き、カトリックの教会は原則西向きである。
中央祠堂
北祠堂
　上が中央祠堂、下が北祠堂。最も高い中央祠堂は修復の途中であったのか、一部新しいレンガに覆われているのに装飾が残っておらず、いくぶん中途半端な感じがした。一方、南北の祠堂はくすんだ色合いと屋根の段部に生えた草が残り、古い遺跡らしい情緒を色濃く残していた。今は、その後の修復によりまた雰囲気は変わっているかも知れない。
　これら三基の塔は各面に扉らしきものがあり、その上部にはナーガに乗った戦士やカーラを描いた見事な漆喰のまぐさ石が見られ、高度な芸術水準を感じさせてくれる。ただし、実際の開口部は正面である東側一ヶ所だけで、他の面は扉の形に似せて彫り上げただけの偽扉である。

（2010.12 撮影）
多孔窓
　アンコール遺跡群の建築様式の変遷を示すものの一つに、開けられた窓の形がある。プリア・カンはじめロリュオスには、壁面に規則的な配列で穴を開けただけの、最も古いタイプである多孔窓が見られる。アンコール・ワットなどより新しい寺院では、開口部を縦長の格子状の石材で支えた連子状窓が用いられている。その洗練された姿に比べると、いかにも素朴な感じがする。

（2010.12 撮影、D）
東から見たバコン
　ロリュオスの中央に位置するバコン(Bakong)は、881年にインドラバルマン一世(Indravarman I)によって建立された。王都ハリハラーラヤの国家寺院であったこの寺院は、クメール最古の階段式ピラミッド型寺院で、ジャワ島のボロブドゥール寺院との関連が指摘されている。また、建築材料に砂岩を使用した最初の寺院である。
　二重の濠に囲まれた内部には、65×67ｍの基壇上に五層の回廊があり、頂上に中央祠堂が載っている。最下層の外側にも全部で八基の祠堂が建つ。また、各層の四隅には象、階段の両側にはシンハ（獅子）の石像が置かれている。

（2010.12 撮影）
撮影ガイド：どの方向も同じような外観なので、いつでもどこか順光になる。できれば正面が順光になる午前中に訪れたい。
中央祠堂
　バコンの頂上に聳える中央祠堂。基壇の大きさと比べると随分細身な印象を受けるが、それだけに、下から見ると天を突く感じが強い。
　どの面からも階段で頂上まで塔のそばまで近づけるが、他の寺院同様東正面のみ開口部があり、他の三面は偽扉となっている。
　なお、この中央祠堂は、9世紀の建築様式ではなく、12世紀頃のものと言われており、後世に建て直されたと考えられている。

（2010.12 撮影）
周囲に建つ祠堂
中間階層に立つ小祠堂
　ピラミッド型の基壇の周囲には、全部で八基の祠堂が建つ。これらの塔はレンガ造りで、近隣のプリア・コーやロレイの祠堂とよく似ている。保存状態は様々で半ば崩れたものもあるが、状態のよいものはレンガの色が林の緑と空の青によく映え、屋根から生える草木もあいまっていかにも遺跡らしい風格を出している。
　そして、途中の階層には石造りの小さい祠堂がいくつか見られる。これも保存状態がまちまちであるが、どれも傾いた柱に崩れかけた屋根に時の流れを感じさせてくれる。

（2010.12 撮影）
バコンの内濠
　バコン全体の大きさは900×700ｍにも達する大規模な寺院であった。しかし、外濠はほとんど失われ、内濠の中が現在の境内として残っている。
　観光客の入口は内濠の東側にあり、崩れ去った塔門から濠を渡って中央祠堂を正面に見ながら近づいていく。濠の外側は豊かな林に覆われている。

（2010.12 撮影、D）

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