この旅行も残すところあと二日、それもただ家に向かって帰るだけなので、ただでさえ気分が盛り下がるところだが、ここで追い打ちをかけるごとく重大トラブルが発生。チェックアウトの際、風のためバスが止まっていると耳を疑うような話を伝えられた。
　とにかく外へ出てみると、昨日までの晴天と打って変わって空一面白い雲に覆われているものの、今は特に風が強いわけでもない。そう言えば就寝中風の音が聞こえた気もするし、気温もかなり下がっていることから、どうやら昨晩寒冷前線でも通過したらしく、その時の強風により砂嵐が発生したのか。半信半疑でバスターミナルにやってきたところ、やはりウルムチ行きのバスは運休していて、強風による道路閉鎖が原因とのこと。
　北京行きの飛行機に乗るためには16時までにウルムチの空港に到着していなければならず、間に合わなければ家に帰れなくなってしまう。過去に何度か乗り損ねた経験から、帰路は搭乗便の空港所在地に前泊すべきという鉄則を得たはずだが、懲りずにまた欲張った日程を取ったことが招いた、自業自得のピンチではある。

　タイムリミットまであと六時間余り。既に風は弱まっているのでそのうちバスも運行再開するだろうが、いつ再開するのか全くわからず、こうなったら列車で立ってでも行こうと、タクシーで駅へ向かうこととする。あいにくトルファンは市街と駅が極端に離れており、若いウイグル人ドライバーは駅の場所がわからず、造成中の工場団地へ迷い込んだりしたので一時間以上かかってしまった。
　何とかたどり着いたトルファンの駅だが、工事中なのか仮設の小さい建物があるだけで、人の姿もあまり見当たらない。待ち客が多かったら列車に乗れる希望があったのだが、この様子ではウルムチ行きの列車は当分来ないか、無座でもここからウルムチへは乗れないかのどちらかだろう。
　八方ふさがりだと思いかけた時、駅前でたむろしている白タクドライバーがどこに行くのかと近づいてきた。ウルムチと答えると1000元なら行ってやるとのこと。道路が閉まっていると聞いたが？と言うと、問題ないとの返答。完全なぼったくりなのは承知だが、飛行機に乗れず帰国が遅れるより遥かにましなので、空港でも1000元なのを念押し（ウルムチ空港はトルファンからだと市街の反対側になるため、何も言わなければ後から上乗せされる可能性があった。）して出発。車はセダンで、乗り心地は良好。

　バスが通る高速道路が閉鎖されているのだから、どこか他の裏道でも使うのかと思っていたが、駅を離れた車は普通に高速へと入っていった。何のことはない、もう通れるようになっていたということである。結果としてはバスターミナルに残っていた方が良かったのかも知れないが、道路が再開したとてバスがすぐ動き出す保証もないし、そもそもいつ道路が再開するかあの時点ではわからない話なので、仕方がないだろう。
　そんな葛藤をよそに車は快適に天山山脈を抜け、盆地を快走。ウルムチの手前の検問は、バスの時と違って停められもせずそのまま通過できた。ドライバーは漢族だし、日本人も車に乗っていれば漢族と見分けがつかないから検査の必要なしと判断されたか。今日唯一いい思いをしたのがここであった。
　それからウルムチ市街に差し掛かり、ビル群の間の高架道路をかっ飛ばす。そして15時過ぎ、空港に到着。おかげで間に合った。まさか最後にこんな出費があるとは思っても見ず、手持ちの人民元が足りないのでと国際線ターミナルに行き、そこで円を両替してドライバーに1000元渡して別れたのである。

　今日はとにかく空港に着くことが最優先でこれまで何も食べていないが、精神的にどっと疲れたせいか食欲が湧かない。とは言え出発まで少し時間があるので、新疆の名残にと今まで食べそびれていたポロ（ウイグル風ピラフ）をターミナルビルの食堂で注文。売切れ間近で肉なしのものしかないと言われたのを構わずオーダーしたところ、所詮空港の店だからかそれほど美味しく感じられない。とは言え、ピラフの類なので大外れはなく、無難に平らげられた。
　食後は厳しい検査を受けて搭乗し、定刻17:50に北京へ向けて出発。すっかり暗くなった21:35に北京首都空港に到着した後、初日と同じく送迎車でホテルにチェックイン、明日の帰国に備えてゆっくりと休眠を取ったのであった。

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