エーゲ海に面したイオニア地方には、早くからギリシャ人の植民都市がたくさん形成された。エフェス（古代名エフェソス）もそのうちの一つで、港と背後の丘の間に劇場や神殿等が次々に作られていった。ローマの支配に入ってからも発展を続け、最盛期には一説によると40万人もの人口を擁したとも言われる。
　繁栄の生命線だった港は絶えず埋没の脅威にさらされたが、さらに時代が下ったビザンツ時代も431年にエフェソスの公会議が開催されるなど重要拠点であった。しかしこれが歴史の表舞台に現れた最後であった。その後はイスラム軍の侵入等の混乱の中、エフェソスは忘れられていった。
　発掘されているのはまだ一部ながら、現存するギリシャ遺跡としては最大のもので、ギリシャ本土にもこれほどの遺跡は存在しない。
　斜面をうまく利用した大劇場、大理石で舗装された大通り、神々の彫刻やモザイク、建ち並ぶ列柱などが次々と現れるので、いつまで見ていても飽きることのないすばらしい遺跡である。遺跡の中心から少し離れた場所には、フィロンの世界七不思議の一つに挙げられたアルテミス神殿があったが、今では石柱が１本ぽつんと立つのみでぱっとしない。
　それよりも、これだけの大遺跡ながら世界遺産に登録されていない方が不思議に思う。一般の歴史好きには面白い所だが、学術的にはあまり値打ちがないのだろうか。